【はじめに】
明らかな心理社会的ストレスを契機に発症する適応障害は、抑うつ状態顕在下における気分障害と同様に、自律神経機能異常に基づく多彩な身体的変調を来す。そこで今回は、本疾患の自律神経活動を主眼とした検討を行い、併せて気分障害との比較検討を加えた。

【対象・方法】
対象は、年齢が15歳〜65歳までの59例(平均年齢41歳)であり、臨床診断の内訳が適応障害(AD)27例、気分障害32例であり、後者をうつ病相(DS)17例と寛解期(Rem)15例に分類した。抑うつ状態の有無、自律神経活動の定量評価は、全対象例について、各々自己評価式抑うつ性尺度(SDS)、Holter心電図を用いて行った。

【結果】
1)SDS成績:AD、DS群は、各々58、53であり、AD群が有意な高値を示した。2)Holter心電図の時間領域:洞性心拍が2拍連続するN-Nの総数は、AD、DS群がRem群より有意な頻拍化を呈した。N-N間隔の変動係数は、各群間に有意差を認め、且つ、AD群が最も高値を示した。3)周波数領域:LF、HF成分は、平均値が各々AD813・Rem370・DS135、AD552・Rem342・DS67であり、HF成分のADとRem間を除き有意差が得られ、AD群とDS群との心拍変動パターンの差異を肉眼的に把握しえた。また、AD群は、抗不安薬投与前後の比較検討において、HFおよびLF/HFの指標に有意差を認め、さらに、SDSとLF/HFの両者間に密接な関連性を裏付ける成績が見出された。

【結語】
1)周波数領域で描出される心拍トレンドグラムの三次元表示画像は、抑うつ状態をもたらす適応障害と気分障害を視覚的に鑑別する客観的情報源になりうるものと考えられた。
2)LF/HFは、適応障害の治療奏功度を判定する際の客観的指標として有用性が高いものと推測された。


城山病院